医者は腹痛をどのように診察しているの?【医師の頭の中を大公開】



こんにちは。水野クリニックの水野創太です。



皆さんはこれまで腹痛で病院を受診したことはありますか?



「いつ頃からお腹が痛くなりましたか?」

「どういった痛みですか?」

「過去にこういった腹痛はありましたか?」




など、経験のある方はあれこれ質問をされたのではないでしょうか。


患者さんからすると、あれやこれや聞かれてどんな病気を疑われているのか不安になりますよね。



今日は腹痛の患者さんを医師がどのような思考で診察をしているかをご紹介します。



知っていると自分がお腹が痛くなった時に診察の際に何を医師に伝えればいいかが明確になります。


それではいきましょう。


目次

まずは問診と診察から病気を絞りこむ


いつごろからの症状で、どこが痛みますか?





まず1番最初に聞くことは




「症状がいつ頃から始まり、どこが痛むのか」




です。


例えば

A:「半年前から、食事をすると胃が痛くなる」という患者さん



B:「昨夜から下っ腹が痛い」という患者さん




Aの患者さんとBの患者さんでは考える病気も大きく違ってきます。

<Aの場合>

半年前からの痛みであれば慢性的な病気があって、それが原因で腹痛が起きていることが想定されます。


これまでに同じような症状がなかったか。

症状があるなら何かきっかけがなかったか。

健康診断や胃カメラなどは最近受けたか。


というように、比較的長い期間で受診までに経験したことを中心に情報を拾い上げていきます。


また痛む場所が胃である場合、一般的にはお腹の上の方に原因があることが「予想」されます。


「予想される」というのは、患者さんが胃が痛いと言っても実際に原因となる臓器は別にあるかもしれないからです。


胃の周りには心臓や肺、肝臓、胆のう、すい臓、十二指腸などさまざまな臓器があります。


実際に胃が痛いといって病院で検査をしたら心筋梗塞であったケースも報告されています。

<Bの場合>

昨夜から症状がある場合、ここ数日以内に体内で何か変化が起きた可能性が考えられます。

「自分で思い当たることはないか?


食事であやしいものは食べなかったか?」(ナマモノや消費期限の切れたのものを食べていないか等)


最近始めた薬はないか?



といったように直近の行動について問診していきます。



そして痛む場所が下っ腹ということですが、右なのか左なのか真ん中なのかによっても考える病気が変わってきます。



このようにまずは「痛み始めたのがいつなのか」と「痛む場所」である程度の病気の目星をつけていきます。


症状の出方によっては、いつから症状があるのかはっきり思い出せないこともあります。



そんな時は先生に正直に話していただければいいと思います。



実際に受診した時はそれどころではないと思うので、きっと先生もわかってくれるでしょう。



腹痛以外の症状はないか。





「いつからの症状か」と「痛む場所」からいくつかの病気を頭の中に思い浮かべます。



そうしたら次は腹痛以外の症状がないかを聞きます。



先ほどのAの場合で考えてみましょう。

A:「半年前から、食事をすると胃が痛くなる」という患者さん



もしこの患者さんが「最近便が黒い(黒色便)」という場合は、食事の通り道で出血している可能性を考えます。



具体的には胃潰瘍や胃がん、十二指腸潰瘍などの可能性を考え胃カメラを考慮します。



もしこの患者さんが「腹痛は冷や汗を掻くほど痛くなって、少ししたら嘘のように症状がなくなる」というような場合は、胆石による痛みなどを考慮して腹部エコーの検査を考慮します。

このように問診で可能性のある病気をさらに絞り込んでいきます。


実際にお腹を診察する





次にお腹の診察をします。



実際の診察では問診をしつつ診察をすることが多く、この2つを同時におこないながら病気を絞り込んでいきます。



そしてお腹の診察をすることで、自分の考えている病気がお腹の所見と一致するかどうかを確認します。



胃が痛いと思っていたけど、いざお腹を触られると別の部分が実は痛かったなんてこともしばしば経験します。



またお腹の診察にはもう1つ役割があります。



それは「病気の程度を確認すること」です。



強く痛むのか。

全体がなんとなく痛いのか。

ある特定の部分だけ痛むのか。



お腹を押した時の患者さんの力の入れ方1つで重傷感があるかどうかがわかります。


このようにお腹の診察から得られる情報はとても多いんです。

電話越しだけの診察で診断ができないというのは、こう言ったポイントがあるからなんです。

病気を絞れない時は検査を追加する





問診・診察をおこない、複数の病気の可能性を考えます。



例えば




   胃潰瘍 50%



   逆流性食道炎 30%



   胆石による痛み 20%




というように、それぞれの病気の確率を頭に思い浮かべます。




病気を絞り込めていれば薬の処方だけで診療が終わることもあります。



病気を絞りこめない場合には血液検査や画像検査を追加します。



「検査をする医者は良い医者で、検査をしない医者は悪い医者」という言葉をよく聞きます。



確かに検査を追加するかどうかは医師の判断によります。



しかしながら問診と触診で明らかに胃腸炎の患者さんにCTを撮ることは果たして良いことでしょうか。



CT検査にもお金がかかりますし、放射線への暴露も問題もあります。



患者さんの症状に合わせた必要最低限の検査・治療を提供することが最も患者さんにとっては良い診療であると思います。



もちろん病気を絞り込めず、検査によって治療方針が大きく変わる場合に関しては積極的に血液検査、画像検査へ進みます。

病気にはそれぞれ典型的なパターンがある






病気にはそれぞれ典型的なパターンがあります。


典型的なパターンを前提に問診をすすめていきます。


少し紹介させていただきます。


①胆石発作(胆石疝痛)



胆石とは肝臓の下についている胆のうと呼ばれる袋の中にできる石のことです。

場所としては右の肋骨の下にあります。

胆石が胆汁と呼ばれる消化液の出口を塞いでしまい、胆のうの内圧が上がると猛烈な腹痛が出現します。

石の位置がコロッと戻ると嘘みたいに腹痛が治ります。

胆石発作の典型的な症状は、脂っこいものを食べた後に右の肋骨の下に脂汗をかくような急激な痛みに襲われることです。

もともと胆石症を健診などで指摘されている方では要注意です。

②胃/十二指腸潰瘍


教科書的には胃潰瘍は食後にみぞおちが痛くなって、十二指腸潰瘍は空腹時にみぞおちから背中にかけて痛むと言われています。

もちろん典型例に当てはまらない人もたくさんみえます。

また胃潰瘍の原因となるピロリ菌の感染が分かっている人や、

胃の粘膜を攻撃するロキソプロフェンのような鎮痛剤を日常的に内服している人なら病気の可能性が上がります。

そして粘膜がえぐれて、血管が露出すると潰瘍から出血をすることもあります。

便が黒くなって、貧血症状で受診されたことをきっかけに胃潰瘍がわかる例も珍しくないです。

③虫垂炎(盲腸)



いわゆるみなさんの知る「盲腸(もうちょう)」です。

小腸と大腸のつなぎ目付近に存在し、右の下腹部に位置しています。

虫垂炎の初期ではみぞおちの当たりが痛くなって、最終的には右の下腹部に痛みが移動していくのが典型的な例とされています。

吐き気や熱が出ることも病気を探す手がかりになります。

ここまで3つ例を挙げましたが、実際にカチッと典型例に当てはまるケースは実はほとんどないんです。

しかしながら典型的な例を知っていることで何を問診すれば良いのかがわかります。

そこにこれまでの診療で培った経験をすり合わせることで、より診断精度をあげることができます。

まとめ




・問診と診察で病気を絞りこむ

・病気の典型的なパターンを知っている

・お腹を触らないとわからない




今回は医師がどのような思考で腹痛を見ているかについて説明をいたしました。



病院を受診する際には「症状の出たタイミング」「痛む場所」「腹痛以外の症状」を頭で整理して受診できると先生にも意図が伝わりやすいかと思います。



もし腹痛で医療機関を受診することがあれば、少し思い出していただけると幸いです。



今日はここまでにさせていただきます。

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